商店街
上京して15年ぐらい同じアパートに住んでいる。人混みや派手なネオンが無く、東京のわりには静かで家賃も安めの場所だ。商店街も「この店主ずっとおじいさんだな」と人生のおじいさんの期間が長いことを教えてくれる店が多い。たまに新店ができるが、静かな町なのでほとんどの店がつぶれてしまう。
コロナが流行る前の話だが、商店街をブラブラしてたら見たことあるおじいさんが弁当屋で店員さんに絡んでいた。店員さんが中国の方なので日本語がうまく伝わらずキレてるようだった。この声覚えている。昔バイトしてたコンビニのクレーマーだ。
そのじじいは(当然ここからじじいと呼びます)あらゆることに因縁をつけてくる常連のクレーマーで、全店員からレジに来るまでに奇跡的に死んでくれと願われていた。目があう「何見てんだ」通路であう「邪魔だ」全部自分からあわせにきて、じじいになるまで留年してるヤンキーみたいだった。
少し前にコンビニ店員が絡んできたお客さんをぶん殴ったニュースがあって、それに対して接客業向いてないよってコメントしてる人を見たのだが、この世に接客業に向いてる人間はいないし、人の悪意は無限大を実際に体験してきたので、店員に何言っても殺されることは無いと思ってるお客さんがいるけど、その店員の人生のタイミングとバッチリ合えば十分可能性があるのでお互い気を付けた方がいいと思った。ほとんどの店員はクレーマーに何を言われても「辞めたらぶっ殺してやる」と辞めてもぶっ殺していい世界に行けるわけでもないのに、退職してたまたま再会した路上の電柱で額を砕き、ねこじゃらしで首を絞め、証明写真機に座らせて立ち去る妄想をして、えへへとやり過ごすものだ。その妄想がちゃんと叶えられる状況になったのはコンビニ店員を辞めてはじめてだった。
このじじいのことで1番思い出すのが、バフマシーンという機械で床をピカピカにする作業をしていた時のことだ。最近の店は元からピカピカに加工してある床が多いので見かけなくなったと思うが、昔はよく見た店員がゆっくり動かすあれだ。その日はオーナーと私の二人夜勤でただでさえ気が抜けない中仕事をしていたのに、ちょうどバフをかけだした嫌なタイミングでじじいが現れた。マシーンをゆっくり動かしていく進行方向にずっとじじいがいる。左に曲がれば七味唐辛子を見つめたじじい、右に曲がれば袋麺が割れていないか確かめるじじいが現れ、できるだけ離れて横を通ってもバックステップしてきたじじいに「おっと、あぶねえ」、角から急に現れたじじいに「邪魔だ」と怒鳴られ、なんだこのクソゲーどうやってクリアするんだとイライラしながら進め、バフマシーンにツーコンマイクが付いていたら試しに叫んでいるところだった。ほんとはじじいが帰るまでいったん中止にしたいが、納品が来る前に終わらせないと時間がなくなるからやるしかない。なんとかゴール付近の雑誌コーナー前まで来たのだが、通路を塞ぐように立ち読みをしているじじいがいて通れない。「あの、通りたいので少し横にずれてくれませんか?」とたずねても、チラッとこっちを見て「今読んでるだろ」と言われ却下されたので、むかつきすぎて「いや、どけよ」と口から出ていた。今まで反撃したことがなかったので驚いたのか、じじいがオーナーの元へ行き、なんだあの店員教育がなってないぞ的なことを言ってる間に、雑誌コーナーをピカピカにしてこのクソゲーをクリアできた。普通にどかせばよかったのだ。それから、そのじじいは私がいる深夜の時間では見なくなった。
ひさしぶりに見たじじいは元々痩せ型だった体がさらに萎んでいて、弁当屋の中国人女性がスーッと逃げていくのをしつこく追いかけていく足取りもどこか悪いのかフラフラしていた。あんなにぶっ殺したかったじじいに特に何の怒りもない。それどころか、なぜか他人事じゃないように感じた。店の入り口付近でずっと見つめていたのだが、こちらに気づいたじじいは店員さんによく聞こえない捨てゼリフを吐きながら店を出て行った。今はこの弁当屋さんもつぶれて無くなっている。
商店街の中にできてすぐ閉店した店の人たちが、今は何をしているのだろうかとふと頭をよぎることがある。だいたい自分の気分が落ちている時だ。そんな時によぎることなので、あまり良いことを想像できない。でも、名前も忘れた弁当屋のあの竜田揚げがうまかったことは覚えていて、その自分が覚えていることに自分が救われた気持ちになる。それはすばらしいことでは無いだろうか。と思いたい。
近所の雀荘の前を歩いてたら、そこから出てきたおじさんに「○○のコンビニにいた人だね」と声をかけられたことがあった。この人もあのコンビニの常連客のおじさんだ。クレーマーではなく普通のお客さん。「ああ、どうも」と少し会話をしてたら「普段は優しい顔をしてるね」と言われた。お互い様だったのかもしれない。
コロナが流行る前の話だが、商店街をブラブラしてたら見たことあるおじいさんが弁当屋で店員さんに絡んでいた。店員さんが中国の方なので日本語がうまく伝わらずキレてるようだった。この声覚えている。昔バイトしてたコンビニのクレーマーだ。
そのじじいは(当然ここからじじいと呼びます)あらゆることに因縁をつけてくる常連のクレーマーで、全店員からレジに来るまでに奇跡的に死んでくれと願われていた。目があう「何見てんだ」通路であう「邪魔だ」全部自分からあわせにきて、じじいになるまで留年してるヤンキーみたいだった。
少し前にコンビニ店員が絡んできたお客さんをぶん殴ったニュースがあって、それに対して接客業向いてないよってコメントしてる人を見たのだが、この世に接客業に向いてる人間はいないし、人の悪意は無限大を実際に体験してきたので、店員に何言っても殺されることは無いと思ってるお客さんがいるけど、その店員の人生のタイミングとバッチリ合えば十分可能性があるのでお互い気を付けた方がいいと思った。ほとんどの店員はクレーマーに何を言われても「辞めたらぶっ殺してやる」と辞めてもぶっ殺していい世界に行けるわけでもないのに、退職してたまたま再会した路上の電柱で額を砕き、ねこじゃらしで首を絞め、証明写真機に座らせて立ち去る妄想をして、えへへとやり過ごすものだ。その妄想がちゃんと叶えられる状況になったのはコンビニ店員を辞めてはじめてだった。
このじじいのことで1番思い出すのが、バフマシーンという機械で床をピカピカにする作業をしていた時のことだ。最近の店は元からピカピカに加工してある床が多いので見かけなくなったと思うが、昔はよく見た店員がゆっくり動かすあれだ。その日はオーナーと私の二人夜勤でただでさえ気が抜けない中仕事をしていたのに、ちょうどバフをかけだした嫌なタイミングでじじいが現れた。マシーンをゆっくり動かしていく進行方向にずっとじじいがいる。左に曲がれば七味唐辛子を見つめたじじい、右に曲がれば袋麺が割れていないか確かめるじじいが現れ、できるだけ離れて横を通ってもバックステップしてきたじじいに「おっと、あぶねえ」、角から急に現れたじじいに「邪魔だ」と怒鳴られ、なんだこのクソゲーどうやってクリアするんだとイライラしながら進め、バフマシーンにツーコンマイクが付いていたら試しに叫んでいるところだった。ほんとはじじいが帰るまでいったん中止にしたいが、納品が来る前に終わらせないと時間がなくなるからやるしかない。なんとかゴール付近の雑誌コーナー前まで来たのだが、通路を塞ぐように立ち読みをしているじじいがいて通れない。「あの、通りたいので少し横にずれてくれませんか?」とたずねても、チラッとこっちを見て「今読んでるだろ」と言われ却下されたので、むかつきすぎて「いや、どけよ」と口から出ていた。今まで反撃したことがなかったので驚いたのか、じじいがオーナーの元へ行き、なんだあの店員教育がなってないぞ的なことを言ってる間に、雑誌コーナーをピカピカにしてこのクソゲーをクリアできた。普通にどかせばよかったのだ。それから、そのじじいは私がいる深夜の時間では見なくなった。
ひさしぶりに見たじじいは元々痩せ型だった体がさらに萎んでいて、弁当屋の中国人女性がスーッと逃げていくのをしつこく追いかけていく足取りもどこか悪いのかフラフラしていた。あんなにぶっ殺したかったじじいに特に何の怒りもない。それどころか、なぜか他人事じゃないように感じた。店の入り口付近でずっと見つめていたのだが、こちらに気づいたじじいは店員さんによく聞こえない捨てゼリフを吐きながら店を出て行った。今はこの弁当屋さんもつぶれて無くなっている。
商店街の中にできてすぐ閉店した店の人たちが、今は何をしているのだろうかとふと頭をよぎることがある。だいたい自分の気分が落ちている時だ。そんな時によぎることなので、あまり良いことを想像できない。でも、名前も忘れた弁当屋のあの竜田揚げがうまかったことは覚えていて、その自分が覚えていることに自分が救われた気持ちになる。それはすばらしいことでは無いだろうか。と思いたい。
近所の雀荘の前を歩いてたら、そこから出てきたおじさんに「○○のコンビニにいた人だね」と声をかけられたことがあった。この人もあのコンビニの常連客のおじさんだ。クレーマーではなく普通のお客さん。「ああ、どうも」と少し会話をしてたら「普段は優しい顔をしてるね」と言われた。お互い様だったのかもしれない。
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コメントの投稿
いいものを読ませてもらいました。ありがとうございます。
最高の文章
良い話(泣)
good.です
良いお話ありがとうございます。
たかさんて文章書くの天才ですよね
No title
母の日の話もそうですけど、ぼくはまんがより(失礼しました)たかさんのこういう文章の方が好きです。
No title
面白いのないなぁ、と思いながら雑誌を読んでいて、唯一「面白い!好き!」と思ったのが「契れないひと」でした。何度も正社員を数か月でクビになっている私に響きました。単行本は、何度も読み返しています。あまりそういうことはないので、私にとって貴重な漫画です。たけしさん、ありがとうございます。