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びちゃびちゃ

男子ロッカーを開けると見たことない顔写真がついた制服があった。50代のおじさんが入ってきたようだ。監視カメラを巻き戻して確認すると舌が短いのか歯が無いのかわからないが滑舌が悪い癖に早口で接客中何言ってるほとんど聞き取れないハゲたおじさんが働いていた。申し訳ないが仕事できなそうだなと思いながら連絡ノートを開くと、パートで1番性格の悪いおばさんから「経験者と聞いていたのですが」「先が思いやられます(>_<)」「(お客が多い)土曜が怖い(T_T)」とすでに二度と好かれることない嫌われ方をしていて、それに対しておじさんが達筆すぎてほとんど何書いてるかわからない文字で謝罪していた。喋っても書いてもほとんど伝わらない人が接客業の経験者ってただクビになった経験があるだけの気がするが、おじさんが言うには前いたコンビニでバイトから社員になってたらしく、普通はプラスになる情報なのに全員から仕事ができない上に嘘つきのハゲと思われてしまった。

コンビニはうちに限らず万年人手不足なので、おじさんみたいに夜勤以外はどこでも週何日でも入れますみたいな人はそれだけで採用される。朝、昼、夕と孤軍奮闘すればするほど悲しいかな嫌われる人数も怒りの深さもどんどん増していき、ノートに書かれる今日の感想が殺す理由まで書かれたデスノートになっていった。

おじさんが来てから男子ロッカーが柔道部のロッカーに変わった。殺人的な加齢臭がする。私は夜勤なのでそんなに接触したことがなく知らなかったが、朝勤の眼鏡をかけたおとなしい誰の悪口も言わない女子大生が“口も臭い”と教えてくれた。おじさんの身になると自殺したくなるが、臭いというのは仕事ができないとか性格が悪いとかより一番に治さなくちゃいけないことだとわかった。私はこのおじさんよりはさすがに仕事はできるが、数十年後臭くなったら成果の全てが無にされるかもしれない恐怖を、夕勤の高校生たちが「びちゃびちゃにしちゃえよ」とおじさんの制服にファブリーズを吹きかけてるのを見ながら感じた。


たぶん私がこのおじさんに1番優しく接している。あまり関わりがないせいもあるが、もっとひどい奴と仕事をしてるからである。三ヶ月くらい前に入ってきたネパール人の学生シャマランである。いまだにレジと掃除ぐらいしか任せられないし、レジと掃除もそんなにできていない。まずシャマランは誰にも謝らない。レジでよく釣り間違いやポイントカードを通し忘れたりするのだが、客に謝らないし、合ってる通したと平気で嘘をつき、缶チューハイを買い物袋から半分出して飲んでるギターを背負った女になぜか私が顔面を近づけられて殺すぞと言われたりした。最初の頃は日本語があまりわからないからかなと思っていたが、それだけではないことがだんだんわかってきた。シャマランは私が目を離すと何も仕事をしなくなる。私が事務所で休憩してる時ふとカメラを見ると店内に誰もいない。裏の倉庫を見に行くとシャマランは壁にもたれて携帯を見ていた。こいつは自主的に動くことはないので常に仕事をこちらから与えないといけないと思い、私が休憩してる間商品の前出しをするように指示した。カメラを見ていると両手を後ろに組み、店内をゆっくり歩きながらたまに商品を突く気功の達人がいた。私がウォークインというペットボトル飲料の棚の裏に入って品出ししてる時中から店内が見えないので、シャマランに窓掃除をしておくように指示をした。品出しが終わり、店内に戻りシャマランに終わった?と聞くとオワッタと答えた。窓を見るとどうもやった感じがしなかったので監視カメラを巻戻して見ると、事務所の椅子に座り、廃棄のおにぎりを食べながら椅子を90度行ったり来たりしてるネパール人がいた。私は人に怒鳴ると疲れるのでいつも「ダメだぞ」ぐらいの低温でしか注意しなかったらどんどんシャマランに舐められていき、とうとう注意してる間シャマランはヘラヘラするようになった。

シャマランと一緒に仕事をして本当の姿を知ってる店員は私しかいないので、夜勤と交代でやってくる朝勤のおばさんたちにシャマランは人気者だった。シャマランがクズなことを誰にも報告してなかったので、ネパールから単身日本にやってきて苦労してる純朴な青年として、おばさんがシャマちゃんと呼んだり、ジュースを奢ってあげたりして、カメルーンと中津江村みたいな空気が流れていた。なんか嫌だなと思いながら、まあいいかと流してたのだが、シャマランが糞の役に立たない上に足も引っ張られてるので1日の夜勤仕事のほとんどを私がやらなければいけない生活が続き、疲れきった退勤後カメルーンと中津江村を見てると無性にイライラしてきて、中津江村の方にまで殺意を覚えだし、シャマランがクチャラーなことにもムカついてきた。その日もシャマランが何度教えてもレジ点検の表を適当に書くので注意したら、ここが変だよ日本人とヘラヘラしてたので、


「あのさぁ、すみません。ごめんなさい。って日本語知ってる?」



「??ゴメンナサイ??シッテル」



「それって、、、今使うんちゃうんかああああああああい!!!!!!」

と林先生みたいな誘い方で怒鳴った。“今使うんちゃうんかい”は伝わってないと思うが、今まで1度も怒鳴ったことなかったのではじめて生で聞く大きい声の関西弁は効いたみたいだ。それからはミスをするたび

「ご、め、ん」

「ゴ、メ、ン.」

「な、さ、い」

「ナ、サ、イ」

とごめんなさいを陰湿に無理やりにでも言わせてると、ヘラヘラすることも仕事中サボることもなくなり、雑だが一応指示通り仕事はしてくれるようになった。


ある日休み明けに出勤すると、シャマランが辞めていた。
「ワタシキョウデヤメル。アナタ、アタマオカシイヨ」と怒って辞めたらしい。
私が休みの間はじめて他の夜勤と一緒に仕事をしたのだが、仕事中裏の倉庫で寝転がりYouTubeを見ていたようだ。怒鳴られると「ハジメテダカラユルシテヨ」と口論になり「アナタアタマオカシイヨ」と言って辞めたようだ(どういうことだよ)。「タカサンハヤサシカッタ」と言ってたらしく、もしかしたら気づいてないだけでヤラレまくってたのかもしれない。そんな話を聞いてたら、事務所に腐(くさ)おじさんが入ってきた。他の店舗で夕勤をしたあと、うちの店の厨房の発注をしにきたようだ。最近腐おじさんが厨房の発注を任されるようになった。カツとソースとキャベツを発注し食パンを発注せず挟めなかったり、カツとカレーを発注し容器を発注せず盛り付けれなかったりして死ぬほど怒られてるらしいが、ずっと全力でローリングヒルから水没してる清々しさがあり、私だけは味方でいてあげよう(腐おじさんと呼んでしまっているが)と思いながら、ロッカーを開け、シャマランの制服の胸ポケットに差してあった私が買ってあげたボールペンを取り出し、巻いてあった紙に書いた“シャマラン”を引きちぎり自分の胸ポケットに差した。
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Secre

No title

ハンターハンターより面白いブログ

No title

面白いんだけどなぜか泣けるブログ

No title

たかさんは優しい人なんですね

いつも最高におもしろいです。

一緒に働く夜勤、別の人が入ったんでしょうか

Re: No title

> asfさん

もうこれ以上ないじゃん

Re: No title

>
ありがとうございます

Re: No title

> ばたこさん
マジすか学園

Re: タイトルなし

> ファミリーマート店員さん
ありがとうございます

Re: タイトルなし

> ペニスさん
いつの頃からなのかわかりませんが、何回か変わりました
プロフィール

たか たけし

Author:たか たけし


ビッグコミックスペリオール「住みにごり」連載中



週刊ヤングマガジン「契れないひと」連載 全3巻



たかたけしの店 https://suzuri.jp/takatakeshi



お仕事などの連絡先 takatakeshi300@gmail.com

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