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シール

実家の徳島から大学に通うために岡山の山奥に住んでた頃近所のスーパーでアルバイトをしていた。そこのスーパーは古くからの地主の人が建設業の傍らやってる小さな店で、すぐ近くに大きなスーパーがあるのに昔からの付き合いがあるお客さんが多く訪れ、わりと繁盛していた。




僕はこの店で働く前にもっと近所のスーパーでアルバイトしていたのだが、ある日店長が退勤したあと「イカが臭い」と刺身のイカが腐ってると乗り込んできたヤクザの客に責任者を出せと言われたので、帰った店長の携帯に電話したが全然つながらず「この店は責任者もいないのに営業してるのか」と恫喝され、その時いた店員の中で1番バイト歴が長かったのと自分以外に女の店員しかいなかったため男気を出してしまい「僕です」と言ってから、胸ぐらを掴まれたり、なんとかヤクザをいったん店外に出したとこをたまたま車で通りかかったヤクザの先輩に左ハンドルが料金所で千円渡してるみたいに胸ぐらを掴まれたり、「嗅いでみろ」と渡されたイカの刺身に「僕、刺身食えないんでわからないです」と言って怒りを頂点にさせたりして大変な目にあい、これからは誰がレイプされてようが餅を詰まらせてようが2度と人生で男気をみせたりしないと誓ったあと急速にここで働くのが嫌になったので辞めて、しばらく掛け持ちしてたコンビニ夜勤だけしていたのだが、それだけでは仕送りがないので暮らせなく、大家さんの知り合いだった少し離れたこの店で働くことになった。




スーパーの店長は建設会社の社長のお母さんがやっていて、いつも着物の上に割烹着を着てる品のあるおばあさんだった。店長はよく家族といっしょに仕事終わりの僕たちアルバイトまで高級な焼肉屋に連れていっておごってくれたり、少しでも体調が悪そうだと心配してエスパーシールをくれたりした。エスパーシールは見た目がピップエレキバンみたいなシールで、店長の話では宇宙のまごころが常に交流してるらしい(なるほど)。シールには体に貼る用と物に貼る用があり、どっちがどっちだったかは忘れたが、ビートルズのアルバムみたいに赤と青に分かれていて、レジ前のガムといっしょに売られていた。そんなつい買っちゃうわけないだろと思ってたのだが、みんな普通にガムや苺大福みたいに買うので驚いた。店長が近所の人たちに地道に普及活動したせいなのか、今までの付き合いで仕方なくなのか、本当に効いてるのかはよくわからないが、確実に無くなったら買い足しにくる肩こりの固定客がいたので、もうただのピップエレキバンだと思っていた。



学生の今のうちにしか取る時間がないと聞き、車の教習所に通うことにした。住んでるとこも山奥だったがもっと山奥の常に雪が降ってる教習所に通うとMTでも19万なので、だいぶ遠かったし、最初の左に回る講習で落ちて、しばらくずっとロボットの左半身の操縦者が戦死して、残った右半身の自分がバランス崩しながら操縦してる感覚が続き、合格するのは無理の気がしていたが、19万より何千円か少しかかっただけで安く免許をとることができた。




車を買うことはもちろん不可能なので、バイト先の先輩だった人が卒業するので引っ越す時に邪魔だからと一応中古だが新品同然の原付を譲ってもらうことになり、嬉しくてそのまま先輩の家からバイト先へ原付で行き、退勤し、ハンドルの先とスピードメーターにエスパーシールが貼られた原付が駐車場のライトで3か所光っていた。「物に貼る方や!」とひとしきり悲鳴が出たあと、誰が誰を思って何のためにかはもうわかってるので、原付の頭のツボにお灸したみたいに配置されたシールを申し訳ないが爪で剥がそうとすると、シールの薄皮だけしか剥がれず、それから数年後東京で「買取りどころか廃棄代がいる」と言ったバイク王に駄々をこねて無料で引き取らせるまでずっとシールがついたままだったので、ご利益はあったのかもしれない。



しばらくすると、店長に原付に貼ったシールを剥がした跡を見られたのか、「取れてたからまた貼っといたよ」と言われたので、正直に「バイクだとデザイン的に良くないので貼りたくないです」とよくわからない嘘を少しついて、もう貼らないようにとお願いした。嫌がってるのを気づきながらもやってると思っていたのだが、はじめて気づいたようで素直にごめんねと言われた。少し申し訳ない気持ちになったし、同じバイトの高校行ってないヤンキーの女の子が「3本立った!」と何の抵抗もなく携帯に貼ってたので、自分が大人気ない気さえしてきたが、連れて行ってくれた焼肉屋で動けないぐらい肉食べたあとクッパ注文すると喜ぶので、あれでイーブンと思うことにした
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Secre

たかさーん

久しぶりです。元気ですかー!又更新楽しみに待ってます。デング熱にかからないでね。

Re: たかさーん

ありがとうございます。デング熱にはかかりません
プロフィール

たか たけし

Author:たか たけし


ビッグコミックスペリオール「住みにごり」連載中



週刊ヤングマガジン「契れないひと」連載 全3巻



たかたけしの店 https://suzuri.jp/takatakeshi



お仕事などの連絡先 takatakeshi300@gmail.com

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