隣2
今日も隣の部屋の住人のでかいひとりごとが聞こえる。引っ越してきた時に母親と一緒に挨拶というか、挨拶する母親の後ろにいただけだがおそらく高校卒業して大学か専門学校に進学する十代の男だった。
このアパートは2部屋しかないのにでかいひとりごとを喋る人がやたら引っ越してくる。私がここに住んでから隣は3回人が変わったが3人中2人がでかいひとりごとを喋る。
最初の人は女性で前ここで書いたような人で、ずっとひとりごとだと思っていたことがある日私の悪口だったとわかるホラーだったが、今の隣の青年もひとりごとではなく、どうやら漫才か何かのネタの練習をずっと一人でやってるようだ。断片的に聞こえてくる“うっそー”“ちょっと男子”“はい論破”から糞つまらないことはわかるが、たまに“イェー在日在日在日在日在日..”と誰に向けて発表するのかわからないつっこみ(何をボケたんだ)が聞こえるので、いくらつまらなくても十代のお笑い芸人になりたい若者がイェーのあとにただ在日を10数回連呼するつっこみがある台本を作ると思えないし(言われてる間ボケは何してたらいいんだ)、家に友達らしき人が来ても相方と一緒に練習することもないので、だんだん漫才とかピンネタとかお笑いをやりたい人ではない気がしてきたが、だとしたら日々繰り返し練習してる意味がわからなくて怖いので、何かしらウケようと練習してるどうしようもない奴だと思うことにした。
私は仕事が夜勤なので就寝で悩まされることが多い。私が寝る時間に洗濯機は回りだし、登下校の声がこだまし、夏休みには盆踊りの練習がはじまる。もちろん少数派は夜勤だとわかっているので我慢するのだが、寝不足が続きすぎるとそんなこと知ったことかと隣で建ててる新築の上棟式に、窓からエアコンの室外機を階段にして出ていき、紅白幕から顔だけ出して怒鳴ったあと、室外機を四足で登って頭から巣に帰るというトカゲのおじさんになってしまい、家が完成したあと洗濯物干そうと窓を開けるとバシーンと慌てて窓を閉められる音がするのである。
隣の青年の練習も我慢していたが、あまりにも長い時間繰り返し続けるのと夜中に洗濯機回し出したりすることから別に私が夜勤だからとか関係ないじゃんとムカついてきたこともあって、練習が何時間も続くと壁を叩くと凹むかもしれないので壁側にある収納ボックスを蹴ってその振動で俺は怒ってるぞという意思を伝えて静かにさせるということでなんとか凌ぐようになったが、しばらくすると効かなくなり、収納ボックスが本当に“収納”ボックスになってしまった。

知り合いに最近隣がうるさくて眠れないと言うと「耳栓したら」と言われたが、私は普段音をほとんど出さなくて2階に住む大家さんにもずっと留守かと思ったと言われ、音楽もAVもヘッドホンでしか聴かないし、歯磨きやひげ剃りも隣の迷惑にならないようにできるだけ密閉された浴室の中でやるし、テレビも音量を一桁にしてるし、家に来る友達もいないので話し声もないし、と孤独死してから三ヶ月は発見されない自信があるおじさんなので、家を建てるならまだしもこんな最悪の練習のために、なんで声を奪われ(誰も奪ってないが)、耳まで奪われなければいけないんだと納得できず、考え抜いた結果壁際で歯を磨き、放屁をし、ヒゲを剃るという、“できるだけ壁で生活をする”という戦いを選んだ。音には音で戦うのだ。
隣が練習をはじめると、テレビの音量を隣の声が聞こえなくなるまで上げ、壁に肛門を付け“バウンッ”と壁を屁で叩くとなんと壁を拳で叩くより効き目があった(屁のせいではない気はするが)。ハッハッハと心の中で高笑いしながら、“今日は下痢屁(ゲリベ)をこめかみにプレゼントだ”とイチかバチかの放屁をお見舞いしてる時ハッと気づいた。
“これって...騒音おばさんなんじゃ...”


一説によると、報道で一方的にキチガイのおばさんみたいになってた騒音おばさんも被害者とされる夫婦から先に嫌がらせを受けていてそれに反撃してただけという話もあるが罰を受けたのは結局騒音おばさんであり、収納ボックスがほんとに収納ボックスになったのはトカゲのおじさんである。収納ボックスははじめて一人暮しした20年近く前からずっと使っていた。もう引っ越すことがあっても一緒に連れて行くことはできない。私は戦いを止め、ファミリーマートで無印の耳栓を買った。
このアパートは2部屋しかないのにでかいひとりごとを喋る人がやたら引っ越してくる。私がここに住んでから隣は3回人が変わったが3人中2人がでかいひとりごとを喋る。
最初の人は女性で前ここで書いたような人で、ずっとひとりごとだと思っていたことがある日私の悪口だったとわかるホラーだったが、今の隣の青年もひとりごとではなく、どうやら漫才か何かのネタの練習をずっと一人でやってるようだ。断片的に聞こえてくる“うっそー”“ちょっと男子”“はい論破”から糞つまらないことはわかるが、たまに“イェー在日在日在日在日在日..”と誰に向けて発表するのかわからないつっこみ(何をボケたんだ)が聞こえるので、いくらつまらなくても十代のお笑い芸人になりたい若者がイェーのあとにただ在日を10数回連呼するつっこみがある台本を作ると思えないし(言われてる間ボケは何してたらいいんだ)、家に友達らしき人が来ても相方と一緒に練習することもないので、だんだん漫才とかピンネタとかお笑いをやりたい人ではない気がしてきたが、だとしたら日々繰り返し練習してる意味がわからなくて怖いので、何かしらウケようと練習してるどうしようもない奴だと思うことにした。
私は仕事が夜勤なので就寝で悩まされることが多い。私が寝る時間に洗濯機は回りだし、登下校の声がこだまし、夏休みには盆踊りの練習がはじまる。もちろん少数派は夜勤だとわかっているので我慢するのだが、寝不足が続きすぎるとそんなこと知ったことかと隣で建ててる新築の上棟式に、窓からエアコンの室外機を階段にして出ていき、紅白幕から顔だけ出して怒鳴ったあと、室外機を四足で登って頭から巣に帰るというトカゲのおじさんになってしまい、家が完成したあと洗濯物干そうと窓を開けるとバシーンと慌てて窓を閉められる音がするのである。
隣の青年の練習も我慢していたが、あまりにも長い時間繰り返し続けるのと夜中に洗濯機回し出したりすることから別に私が夜勤だからとか関係ないじゃんとムカついてきたこともあって、練習が何時間も続くと壁を叩くと凹むかもしれないので壁側にある収納ボックスを蹴ってその振動で俺は怒ってるぞという意思を伝えて静かにさせるということでなんとか凌ぐようになったが、しばらくすると効かなくなり、収納ボックスが本当に“収納”ボックスになってしまった。

知り合いに最近隣がうるさくて眠れないと言うと「耳栓したら」と言われたが、私は普段音をほとんど出さなくて2階に住む大家さんにもずっと留守かと思ったと言われ、音楽もAVもヘッドホンでしか聴かないし、歯磨きやひげ剃りも隣の迷惑にならないようにできるだけ密閉された浴室の中でやるし、テレビも音量を一桁にしてるし、家に来る友達もいないので話し声もないし、と孤独死してから三ヶ月は発見されない自信があるおじさんなので、家を建てるならまだしもこんな最悪の練習のために、なんで声を奪われ(誰も奪ってないが)、耳まで奪われなければいけないんだと納得できず、考え抜いた結果壁際で歯を磨き、放屁をし、ヒゲを剃るという、“できるだけ壁で生活をする”という戦いを選んだ。音には音で戦うのだ。
隣が練習をはじめると、テレビの音量を隣の声が聞こえなくなるまで上げ、壁に肛門を付け“バウンッ”と壁を屁で叩くとなんと壁を拳で叩くより効き目があった(屁のせいではない気はするが)。ハッハッハと心の中で高笑いしながら、“今日は下痢屁(ゲリベ)をこめかみにプレゼントだ”とイチかバチかの放屁をお見舞いしてる時ハッと気づいた。
“これって...騒音おばさんなんじゃ...”


一説によると、報道で一方的にキチガイのおばさんみたいになってた騒音おばさんも被害者とされる夫婦から先に嫌がらせを受けていてそれに反撃してただけという話もあるが罰を受けたのは結局騒音おばさんであり、収納ボックスがほんとに収納ボックスになったのはトカゲのおじさんである。収納ボックスははじめて一人暮しした20年近く前からずっと使っていた。もう引っ越すことがあっても一緒に連れて行くことはできない。私は戦いを止め、ファミリーマートで無印の耳栓を買った。
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