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ふたなり

最近うちのばあさんの元気が無くなっている。明らかにじいさんが死んでからだ


実家を出てから、ばあさんには年に夏冬2回しか会わなくなったので、夏会ったDVDレコーダーが冬は再生専用ビデオデッキに変わってるほど、急な衰えと一方的に喋るだけでビデオデッキ自体強めに叩かないと再生さえ止めてくれないことにショックをうけてしまった。実家はど田舎なので、今は知らないが町議会選挙で候補者が1万円挟んだ粗品のタオル配りに来ることがほんとにあって、「今年はお姉ちゃん(長女)も二十歳でね」と、もう1万せびった上に「悪い奴だ」とそいつに投票しない人間だったので、子供の頃からばあさんのことが好きだった。ばあさんは自分がブスなことをやたら気にしていて、美人だった姉への劣等感が強く、たまに正月その美人の姉が実家に来たりすると、子供の頃戦時中貴重だったお菓子姉とその取り巻きの男に取られそうになって、走って逃げてなぎ倒され、盗られるぐらいならとお菓子踏んで粉々にした悲惨な話姉が帰ってからされるのだが、こちらからしたら2人ともただの梅干しなのでよくわからんなと思ってたら、子供の頃の写真見ると、正月に家の前で白黒でもわかる鮮やかな晴れ着着たたしかに美人の姉の横で、座布団9つ使ったみたいなもんぺ着たばあさんがカメラマン睨みつけたピューリッツァー賞の表情でこっちを見てたので、ごめんねと思った


じいさんは按摩さんで(座頭市みたいな目の悪いマッサージ師)、口数も少なく、唯一の趣味の巨人軍応援するためにいつもイヤホンでラジオ聞いてる物静かな人で、ニワトリぐらいの視力なのに絶対に1人自転車に乗って診察に行き、たまに変質者にハンドル押さえられ、ばあさんの手作り弁当盗まれて帰ってくるのでじいさんのことも好きだったのだが、ある日いつものように自転車でお客さんの家まで行く道中転んで膝を痛めてから寝たきりになってしまい、夏会った目を閉じてウォークマン聴いてた猿が、冬は目を閉じた猿に変わってたのでショックをうけてしまった



じいさんとばあさんは、じいさんが寝たきりになる前から、目を閉じてラジオ聞いてるじいさんにばあさんが一方的に喋りかけるだけの会話だったので、じいさんが縦から横になっただけで(だけでは無いけど)特に変わりはないのだが、いくらヘルパーさんやうちの親が介護の手伝いするとしても、ばあさんの介護疲れやじいさんのこれからに対する心労もあるだろうから、じいさんが寝たきりになってはじめて帰省した時心配だったのだが、俺の顔見た瞬間こっちこっちと手招きをするので近づくと「ばあちゃん、金玉あるんでよ」と言われた。このばばあ、とうとう孫に下ネタ言うようになったのかと思って、一応触ってみたらほんとに金玉あって笑った。ここにきて"ふたなり"になるの面白いなと思い調べたら、おそらく"子宮脱"という、子宮を支える筋肉が加齢で揺るんで子宮が落ちてくる病気みたいで、手術しろよと言うと「年取って体に傷作るのみっともない」と、ばばあに金玉ある方がみっともないだろとすぐ思う答えだったが、もうこの年なら好きに生きればいいとそれ以上何も言わなかった




それから、数年後じいさんが死んだ。ばあさんは「お互い楽になった」と金玉触ってたが、それからの弱り方をみるとやはりじいさんの存在は大きかったんだと思った。腰は7に曲がっていても、脳味噌は元気だったばあさんが一気にボケがはじまってしまい、人の話をあまり聞かなくなってしまった。うちの兄貴は引きこもりのニートで、たまに「お釣りはいいから」とばあさんに買い物を頼まれ、母親の車で町に行き、頼まれた牛乳、うどんの最安値を必死で探して生計を立ててるクズなのだが、最近その兄貴と名前を間違えて呼ばれることが多くせつなかったりする。それは、このクズと間違えられてることより、離れて暮らしてることがニートより頼られなくなってることを感じるからである。それは自分の親にも感じることであるが、たまに微々たるものだが家に金入れたり、敬老の日にりんご1箱送ってばあさん1口も噛めなかったりしても、そばにいるニートの方を頼りにしてるのを感じ、帰省するたび居場所が無くなっていると最近よく思う。だからと言って、徳島に戻る気はないし、何年たっても畑に牛糞あるし、バスが当たり前に10分以上遅れてそれはいいけど、たまに10分以上早く着いたら停留所に人いないと早く出るし(絶対ダメだろ)、1万払って斜視の風俗嬢出てくるし、今は東京で笑いが止まらないので、ばあさんとは死んでから大事な話仏壇で話そうと思う(それまでは金玉の話でいい)
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青いかばん

青いかばんを探しにおばあさんがやってきた。うちの店で無くしたらしい。口周りの汚れ具合に嫌な予感がするガリガリのおばあさんである。

忘れ物として届いて無かったので、店の隅々まで探したのだが見つからず、「もし後日出てきたら保管して連絡しますんで」と連絡先(一人暮らしらしい)書いてもらい、今日は帰ってもらうことにした。店の外に出たおばあさんが店の中戻ってきた。"青いかばん無くしたんだけど.."うどんの注文とった志村が厨房行って出てきたコント思い出しながら、「さっきも言いましたけど、見つかったら必ず連絡しますんで」と伝えると"あと1回だけ!あと1回だけ!一緒に探して!"(覚えてたのかよ)と腕を掴まれた。自分の腕におばあさんの口周りの汚れと同じ大豆でできた汚れが付いたのを確認して吐きそうになりながら、「じゃあ、もう一度だけですよ」とおばあさんの沢庵色した指先を手の甲にキスする力で掴み、エスコートしながら、もう1度店内を探してあげたが、やはり見つからなかったので「また後日見つかったら連絡しますんで」と外出てもらったら"青いかばん.."と戻ってきた(わかってたけど)。


"あともう1回だけ"を気が遠くなるほど繰り返してる間、レジには常に行列と納品されたのに並べる暇の無い商品の山ができてる。バックルームにはオーナーがいる。なぜ出てこない。1人猛スピードでレジをうち、バージンロードの速度でばばあと腕組んで店内歩いてる私を監視カメラのモニターで見てるはずである。死んでるのかなと思いながら、「ここで待っててください」と言ってるのについてくるばばあを「聞こえないですか?」と安西先生の怒り方で叱り、バックルームに行くとスマホからコインの音してるオーナーが足広げて前屈みに椅子に座っていた。鳴り止まないコイン音と頭頂部だけ見えてるオーナーに、この店が赤字なことに少し面白くなりながら、「あの、大変なお客さん来てるんですけど」と今の状況説明すると「ああ、その人毎日来てるよ」。ここ一ヶ月ぐらい朝から夕方にかけてほぼ毎日何度も来てるらしい。いつもどうしてるのか?と聞くと"無視"とのこと。"む..無視..?"「無視とは..」とたずねると"何を喋りかけられても無視する"という小学生の女の子みたいな方法だった。相手が不登校になるまで無視するという方法が最低なのもそうだが、それをよく一ヶ月続けられるなと思いながら、「いや、それじゃなかなか解決しないんじゃないですかね..」と言ってると、店内から"お兄ちゃーん!"とばばあが私を呼ぶ声がしたので戻ると、"あと1回だけ!あと1回だけ!一緒に探して!そしたらもう帰るから"とはじめて前向きに帰ってくれる言葉聞くことができた。私も嬉しくなり「わかりました。もしこれで出てこなくても、僕らで探しておきますから」と今までで一番ゆっくり腕を組んで歩いたがやはり見つからず、「暗いんで気をつけて帰ってくださいね」とおばあさんが自転車押して帰る様子を外で見送った。5分後戻ってきた。さすがに私もイライラが限界にきたので、「さっき最後だって約束したでしょ!何回同じこと繰り返してんの!」と強く言うと「2回!」と元気な声で返された。こういう時ほんとに数字で回数言われると無茶苦茶むかつくな(2回じゃないし)と思いながら、今度はばばあ1人で店内をウロウロ探しだし、バックルームにまで勝手に入ってきたので、これはもう警察呼ぶしかないのかな..と思ってるとオーナーに「持ち上げて外に出そう」と言われた(は?)。仕方なく「失礼します」とばばあの胴回りを抱きしめ持ち上げたら、「いたい!いたい!いたい!いたい!」と想像より腕がズヌッとばばあの体の中に入って骨や臓器が上へ移動する感覚があり「これは外どころか店内で死んじゃう」とすぐ下ろした。もう少しで人殺しにされそうだったので「もう交番から来てもらいましょう」とオーナーに言うと「百均で青いかばん買って渡したらどうだろう..」と言われたので、「うるせえよ」と私が交番まで呼びにいった。見つかるといいな
プロフィール

たか たけし

Author:たか たけし


ビッグコミックスペリオール「住みにごり」連載中



週刊ヤングマガジン「契れないひと」連載 全3巻



たかたけしの店 https://suzuri.jp/takatakeshi



お仕事などの連絡先 takatakeshi300@gmail.com

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