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引っ越し

去年の夏、引っ越しをした。

上京してから18年間同じアパートに住んでいた。

外から見ると、3階建ての一軒家に見えるアパートで、2階3階は大家さんが住み、1階の2部屋だけ貸し出していた。なぜここにしたかと言うと、先に上京してた友達の家が近かったのと、家賃が安いわりに交通の便や日当たりも良かったから。2部屋しかないので隣に変な人が住む確率も低そうだし。

住みはじめてわかったのは、とにかく壁が薄かった。隣の住人がトイレでうんちをひねり出してる音が聞こえた。公衆トイレの隣の個室ならわかるが、アパートの隣の部屋だ。流す音が聞こえるならまだしも肛門から出てる音が聞こえる部屋に家賃を払いたくない。税金で払って欲しい。公衆アパートなのだから。隣の住人に“あの~、もう少し静かにうんちしてもらっていいですかぁ?”と注意しにいくわけにもいかない。ドアをノックしてすぐノックを返されるかもしれない。そうなったら本当に私は公衆トイレの個室に住んでることになってしまう。

隣の住人がおじいさんだった時は、頻繁に自分の母親らしき人を家に呼び、おじいさんのお母さんなのでおそらく耳が遠く“よしえさんの~弟さんが~死んだんだって~ よしえさんの~弟さんが~死んだんだって~”と大声で2回繰り返す会話をずっとされ、〝ヴィンセントギャロなら2回繰り返しても小声なのに...〟〝壁が薄いんだからそんな大声で言わなくても聞こえるよ!〟とよくわからない怒りも沸いていた。

内見の時は窓を開けると真横に駐車場が見える日当たりのいい部屋だった。住みはじめると、その駐車場に3階建ての一軒家が建った。昼間でもたそがれ清兵衛の家の暗さだ。もう剣先が見えない。コンビニで夜勤のアルバイトをしていたので、一軒家を建ててる間の数ヶ月ずっと寝不足にもなった。枕の2メートル先でドリルをされる生活。ストレスがたまりすぎた私は、上棟式の最中に紅白幕をめくって“うるさいですよー”と注意してしまった。窓から出て室外機を階段にし、ブロック塀を乗り越えて来ないと紅白幕をめくって現れることがない隣のアパートの住人に突然注意された家族は震えていただろう。今思うと申し訳ないことをした。家が完成したあと、その家族は私の部屋の窓に向かって七夕の笹を植え、洗濯物を干せなくした。ロマンチックな報復である。

早く引っ越せよと思うだろうが、単純にお金がなかった。隣の住人がある宗教団体のおば様で“私の留守中に隣の能力者が部屋の物を壊したり、トイレを覗いたりするので退去させてほしい”と大家さんに手紙を出し、大家さんと一緒に“私、能力者じゃないですよ”と説明しに行くと“無礼者”と話を聞いてくれなかった時も、引っ越しするより護身用のカッターを持ち歩く方を選んでしまうぐらいお金がなかった。毎月月末に入ったバイト代が入ってすぐ無くなる借金生活。漫画も生活も何もうまくいかないので、最悪死んだら借金も関係ないと、この頃は無責任に思っていた。

18年の間に東北の震災が起きた。バイトをしていたコンビニの前には川越街道という環七、環八とつながる大きな道路があって、電車が止まって帰れない仕事を終えた人たちがゾロゾロと歩いて帰っていた。疲れきった人たちがみんな立ち寄って来るのでみるみる商品は無くなり、オーナーは揚げるのが間に合わないと嬉しい悲鳴をあげながらからあげを揚げていた。どこから歩いてるんですか?とお客さんにレジでたずねると“秋葉原からです(ここは板橋)。家に着いたらすぐ出社しないと笑”と諦めたように笑っていた。テレビやTwitterでは世界の終わりのような情報ばかり、コンビニには毎日納品されるおにぎりが2個、水1本、当然お客さんが来なくて暇な日々が続き、やることがないのでオーナーに毎日大掃除をさせられ、年末に大掃除をする必要がなくなった。この時人生ではじめて寄付をした。5000円。お年玉じゃないんだからと思うが、実際お年玉をあげたこともなかった。金がなかった自分には大金だった。かなり眉間にシワが寄っていたはずだ。食費何日分か計算していたかもしれないし、少し泣いてたかもしれない。金がないのに寄付をできた経験は、私は金がないのに寄付をできた人間だと自分を勇気づけた気がする。今はもう少しできる。

そして、何より大家さんが優しかった。契約では更新料2年ごとだったはずなのに、なぜか無しにしてくれた。別にいいよと。特に交渉したわけでもなく、後ろ半分服が無くて背中と尻が丸出しだったわけでもないのに。日当たりが悪くなると家賃を千円安くしてくれたりもした(これは文句を言った)。環境は悪いが、大家さんの優しさで体が動かなくなってしまった。

引っ越すことを大家さんに告げると、18年も住んでくれてありがとうと言われた。大家さんも環境の悪さを気にしていたのかもしれない。私もある秘密を抱えていた。壁に貼ってある乃木坂のポスターを剥がすと、拳大の穴が空いていた。荒れていた時期に、拳大そのままに隣の住人の騒音に腹を立て、拳で穴を空けていた。私も隣の住人から“2部屋しかないのに(なぜこんなのが隣に)!?”と思われていたかもしれない。その弁償代も引っ越し費用に入っていた。これが貯まらないと引っ越しできなかった。

大家さんは別にいいよと更新料の時のように無しにしてくれた。18年も住んでくれたのだからと。それどころか敷金が6000円返ってきた。私の寄付より多くて情けない。私は人に恵まれていると思うと同時に、まだ私が気づいてないろくでもないことがこの部屋にあるのではとも思った。壁の穴もちょうど金田一の形に空いていた。

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エネルギーコントロール

半年前から、寝るとよく足をつるようになった。

まあ睡眠不足だし、運動不足だし、茶色の物ばかり食べてるし、冬だし、春になり暖かくなれば治るだろ、桜も咲くし、とはじめのうちは無視していたのだが、だんだん毎日必ずつるようになり、つりの強さもエスカレートして〝つり〟の方から両肩を持たれて目を合わされ、無視できなくなった。

ふくらはぎとスネ。特にスネをつると鎮まるまで叫び続けないと耐えられない痛さ。深夜2時、外で猫も交尾で叫んでいる。どうせなら交尾で叫びたい。ただでさえ少ない睡眠時間がさらに減り、とても辛い。これと関係あるのかわからないが、なぜか寝小便もするようになった(友達に相談したら、しこりすぎでは?と言われ二度と相談しないと決めた)。

ストレッチ、ウォーキング、漢方、敷布団にも毛布を敷く、などをしてもあまり改善されず、念のため血液検査だけでもしてみるかと近所の病院で採血をしてもらった。志村けんのコントのおじいさんぐらいおじいさんすぎる医者から、結果は一週間後に出るので、また来てくださいと言われ、刺された腕が内出血で紫色に変わるのを眺めつつ、嫌なことがさらに増えたけど大丈夫か?と不安になった。

3、4日後に昼飯で王将のチャーハンセットを食べたあと携帯に着信があった。番号はこの前採血してもらった病院。検査結果は一週間後って言ってたけどなんなんだ?とかけ直すと、〝血液検査の結果が出ました。糖尿病です。今すぐ入院しなさい。〟とおじいさんすぎるおじいさんの医者から切羽詰まった感じで言われた。

もう結果出てるんだといういらない驚きもありつつ、いったん病院に向かい、詳しい検査結果を聞いた。

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検査結果の紙を見せてもらうと、中性脂肪が1030(標準30~149)、血糖値が627(標準70~109)、HbA1cが14.2(標準4.6~6.2)と書いてあり、自分でも今すぐ入院しなさいと思った。30が1000て。地球人とサイヤ人じゃん(知らないけど)。あまりにも標準から離れすぎてる数値に、せめて検査結果の紙をキラカードにしてくれと思った。足をつっていたのは血が糖でドロドロになっていたためで、寝小便をしてたのは、体が糖を出したくて泣いていたのかもしれない。おじいさんすぎるおじいさんの医者から〝HbA1cが12だった患者は見たことあるが、14ははじめてだよ〟と笑いながら言われ、もうすぐ引退であろうおじいさんの医者のスカウターを破壊できたことは誇らしいかもしれないが、まだ死にたくないので、紹介状をもらい、大きな病院で診察してもらうことになった。


大病院の診察日まで3日、4日あったので、その間に無駄な抵抗かもしれないが炭水化物、糖分を一切とらずにコンビニのただ袋に入っただけの生野菜を食べまくった。ネットの友人たちに「糖尿病になったみたい」と数値を見せながら報告すると、みんな似たような生活をしてる人たちだったこともあって、全員あからさまにブルーになっていた。トイレに行くたび糖尿病を思い出すようになった友人もいて、悪いことしたかなと思ったが、みんな一度ここで普段の生活を見直すきっかけになればいいなと思った。


ネットで糖尿病の情報を検索しても、自分の数値よりだいぶ下の数値で、やばいやばいと煽ったアクセス数稼ぎの記事があったり、松村邦洋がダイエットをしていた。自分と同じ数値の人が検索でも見つからず、もっと良いことでこうなりたかったと思いながら、家から歩いて30分の大病院に向かってる途中で右手がしびれてきて、これはいよいよまずいなと思った。さすがに漫画を描けなくなるのは勘弁してよと坂の上にある大病院に着くと、まず生まれて初めて点滴をしてもらい、すぐ右手のしびれが回復した。よくコントで見る点滴袋が付いたガラガラで部屋も階も移動しまくり、いろんな検査を受けヘトヘトになったあと、お医者さんに、今すぐ入院した方がいいです。今決めるとすぐ入れますよ。とやっぱり言われたので、漫画の締め切りもあるし、お金かかるし、俺イビキうるさいしと悩んだが、死んだら終わりだしなと一週間だけ入院することにした。


糖尿病の入院。自分の場合は特に手術をするわけではないので、毎日いろんな検査、特に合併症がないかを調べたり、糖尿病にあった食事とこれから生活していく上での知識勉強会や、飲み薬とインスリンを打ちながら経過を見ていくという感じで、〝今から24時間この壺に小便を貯め続けてください〟と、共同トイレの一角に自分の名前が貼られた茶色の壺をボトルキープのように置かれ、小便を入れ続けてる時はもしかしたらタヌキの病院に騙されてるのか?と不安になったが(なんか尿をどれぐらい貯めれるかの検査らしい。最後の方壺がパンパンになって尿があふれそうになった。)、だいぶ自由時間が多くて、自発的にスクワットをしたり、漫画のネームを描いたり、読む暇がなかった本を読んだりして過ごした。ウォーキングをしたかったが、決まりで病院の外に出れないので、どこか室内で歩いていいところってありますかね?と看護士さんに尋ねたら、病院内の廊下や階段を歩き回っていいですよと言われ、絶対邪魔だろと自分から止めておいた。コードブルーの呼びかけで廊下を走るお医者さんに足をかけて転がし、ナースのお仕事のBGMが流れてる場合ではない。実際入院してる一週間で2回コードブルーの放送を聞いた。みなさん、いつもお疲れ様です。消灯になり、目をつぶって寝ようとするが、廊下では24時間忙しそうな看護士さんたちの足音、風が強い日で不安になるぐらい窓が叩かれている音。風が弱くなると、遠くの方から女性の声で痛い痛いと泣いてる声が聞こえてきた。全員知らない人たちだけど、みなさん幸せになってください。という気持ちになる。



入院中1番恐ろしかったのは、突然老眼になったことだ。急に携帯の文字が見えなくなり、遠くの景色がめちゃくちゃはっきり見えるようになった。老眼というか遠視なのか?大麻を吸うと、一瞬木の葉っぱまでめちゃくちゃはっきり見えるようになると昔何かで聞いたことがあったので、エネルギーコントロール食5の味噌汁の湯気に疑いをもちつつ、糖尿病と診断される直前に眼鏡を新しく買い替えていたことを思い出し、いきなり度数が合わなくなって悲しくなった。元々そんなに目がよかったわけではないが、携帯の文字が見えないほどではなかったのでお医者さんに聞いてみたら、急に血糖値が下がると目の水晶体が膨らむことがあるらしくて、それで老眼になってるかもしれないと言われた。ほっといたら2ヵ月ぐらいで水晶体が縮んで戻る人もいれば、膨らんだままで戻らない人もいるらしい。それよりも、糖尿病は目が出血してることがあるので退院したらすぐ眼科に行きなさい(なぜかこの病院では調べられないらしい)と言われ、水晶体が膨らんでることより嫌な出血の可能性を言われることでまだ老眼はマシだと思うことに成功した。


入院中1番楽しみだったのは食事で、これからはこれぐらいの食事量にしてくださいという目安にする意味もあるらしく、ご飯も1食150グラム(お茶碗軽く一杯)、パン80グラム(8枚切り食パン2枚)ぐらいは食べていいらしい。病院食は味は薄めで量も少ないが、全然満足した。でも、基本的に炭水化物と甘い物を食べるのはあまりよくないみたいなので、人生最後のチャーハンが王将のチャーハンになるかもしれない。別にうまかったけど、チェーン店なら福しんのチャーハンの方が好きなんだよなと悲しくなった。好きな食べ物がカレーとチャーハンなので、炭水化物がダメって生活はなかなか辛いが、今までの生活のツケがきたのでしょうがない。病院食が乗せられたお盆には、自分の名前と〝エネルギーコントロール食5〟と書かれた紙も乗っていた。これからは食事と思わず、エネルギーコントロールと思うことにする。仕事をし、好きな本を読み、エネルギーコントロールを食べる。なんか綾波レイみたいでいいかもしれない。


お見舞いはコロナの関係で一週間で2人しか来てはダメらしくて、一人は友人、もう一人は担当編集の人が来てくれた。友人が部屋に入ろうとしたら、看護士さんに面会票の関係性のところを見られて、「あっ、友人」ってなったあと「週に2人までしか面会できなくて、ご家族もまだ来られてないのでご友人はちょっと‥少々おまちいただけますか」となったが「誰も面会に来ないと思います」と伝え「分かりました」と入れてくれたらしい。別にいいが少し嫌なやりとりをわざわざ教えてくれた。友人は、ジャングルの王者ターちゃん全巻とゆでたまごみたいなテンガ2個を差し入れてくれて、徳弘正也の差し入れみたいだった。テンガを病院で使うのは緊張感がありすぎて楽しめないし、女性の看護士さんがちんちんの先にゆでたまごを差してる患者と鉢合わせたら迷惑だろうと思って、家に持って帰ることにした。担当さんは小説など数冊本を差し入れてくれて、入院中に描いた連載漫画のネームを見せると合格になったので、入院中のロスがあまり起きなくてホッとした。


一週間が経ち、退院の日。検査結果は、合併症はなく、臓器、血管等もとくに問題はなく、飲み薬だけでインスリンも打たなくていいらしい。あんなとんでもない数値でとくに被害がなかったのが意外だった。毎年健康診断もしてないのに、一応血液検査をしてみるかと病院に行ったあの時の自分がだいぶファインプレーだったのかもしれない。その後、百均で買った老眼鏡を描けながら、漫画を描くのは大変だったが、眼は出血も無く、1ヵ月ぐらい経つと水晶体が縮み、眼の見え方は以前のように戻った。


2ヵ月後の現在は、極力運動をし、エネルギーコントロール食を食べ、たまに外食で焼き魚定食を食べたり、肉も食べたりしてるうちに、数値も全部標準内に収まっていた。飲み薬も1粒減ったり。今のところ真面目に後半戦を生きてる成果が出ている。これからどうなるかわからないが、できるだけ続けて行こうと思う。twitterで自分のツイートを振り返ってみると、糖尿病とわかる数日前、喫茶店で嬉しそうにチョコレートパフェとミックスジュースの画像をあげていた。

流れ星

歩道を歩いていると、前から自転車がこっちに向かって来ている。

道は狭く、このままだと自転車が停まって私が通りすぎるのを待つか、私が横にずれて自転車が通りすぎるのを待つか、正面衝突してお互い液状に弾け、小さい赤い十字架が2個浮かぶことになる。

こういう時はいつもミスチルの笑顔で横に避けてあげるのだが、自転車が当たり前の無表情で通り過ぎると、一気にぶっ殺すぞこの野郎元々歩道だからなと怒ってしまう。このわずか数秒の間にまったく真逆の感情が上下に揺れる。1人の人間がボランティアから人殺しまでできる可能性がある。たんに私が短気なだけでありませんように。この複雑さが人間で人間に何キャラとかない。空の快晴は喜びなのか、怒りなのか。最近ガソリンスタンドめっちゃ閉店してるな。コロナで社会がさらに貧乏になって、失敗しにくいものを作ることが余計に増えるんだろうな、傘差し運転してるおじいさんと自転車に乗った警察官がお互い並走しながら口喧嘩をしていて三国志みたいだった、松屋の牛めしのアタマ大盛りって少なくないか、最近お風呂に入ってもすぐ金玉周りが臭くなってる気がする、気のせいだといいが…、プラチナソードはもういいです、ちからのたねをくださいな、最近ダイエットで散歩をよくしているのだが、余計なことをたくさん考えられてとても楽しい。たまに鬱回もあって、そういう時はハンバーグを食べておいちとすぐ布団に入ることにしている

2本目のワクチンを打ち終わった。

BMI30以上の太ったおじさんなので、わりと早めに予約受付がはじまった。自分が住んでる区の数ヶ所ある集団接種会場をネット予約しようとしたら、開始すぐファイザーの会場が乃木坂ライブ一般発売のスピードで埋まっていった。乃木坂ライブはチケットを取れなくても配信で見れる場合があるが、集団接種会場は配信がないし、配信されても接種後のアフタートーク付きチケットを買ってイントロクイズコーナーのあともう1本打ち上げみたいな雰囲気の注射を見てる場合でもないし、実際に打たないと意味がないので、ファイザーよりも悪い情報をよく見かけるせいかまだ埋まりが遅かったモデルナの会場を予約した。

当日雨が降っていたので傘を差して、歩いて15分の距離にある公民館みたいな会場に向かうと、入り口に立っていたスタッフの男性が透明ビニールの傘袋の口をお母さんが子供に靴下を履かせる時みたいに広げて待っていた。どうぞ入れてくださいと私の傘が傘袋に入れやすいように口を広げてくれているのだが、そこまでしなくていいのよと思った。私は幼児でもドンペリ入れるわけでもないのに、申し訳ない気持ちになりながら中に入ると、流れるようなスタッフの誘導でいつのまにか白衣を着たおじいさんの前で座っていて、普通に太っていることを叱られた。

叱られる想像をしていなかったので驚いたが、BMI30以上で来てるので叱られてもしょうがないし、叱る時間も用意してくれているんだと思った。「デザートも果物も好きでしょ?朝なら食べていいから」「炭水化物を夜食べないように」と多少のデブへの偏見ともう知ってるよというマル得情報を教わり、スッと注射をされ、経過を見るため15分待機したあと会場から出ると、すぐふわっとお線香の臭いがして笑った。周りの家のどこかで焚いていたのだろう。流れるような誘導の中でお線香の臭いがしたので、流れが良すぎてハッピーエンドを通り抜けてバッドエンドになったのかと思った。優秀な現場のスタッフが、毎日流れてくる嫌なニュースの中にも存在していて、たくさんクズの尻拭いをしているのだろう。副作用は少し気だるさがあったぐらいで高熱が出ることもなく終わった。ありがとうございました。

ちょうどお盆の時期だったが、ワクチンを2本打っても今年も帰省はしなかった。

母親が死んでから1度も帰っていない。コロナだからというのもあるが、帰省していた理由のほとんどが母親だったので帰る気力が無くなってしまった。今年の4月に好きな家族ランキング2位だったおばあさんも死んでしまったので、数年前に死んだ同率2位のおじいさんも入れると、上位3人が全員いなくなったのもでかい。4位の姉には実家のことを任せすぎてるのに申し訳ない気持ちもあるが、あと残っているのがランキング圏外の兄貴と父親ではなかなか腰が重くなるし、やっぱり今無理して帰る理由がないなら動かなくていい。ランキングうんぬんではないのだ。なんだ好きな家族のランキングって。圏外じゃなくて最下位でいいだろとかまあいろいろありますが、今年デパートで母の日のポップを見た時母親死んだなあーとなった。母親の葬式のあと何か形見が欲しいと思って、持って帰ってきた靴下をひさしぶりに引き出しから出して、少し眺めて戻した。黙って持って帰ってきたので家族も誰も知らない。靴下が夜空じゃんと思ってこれにした。靴下の星が流れ星になって願うぐらいのことが起きないともうまったくコロナが収まる気配はないが、ハンバーグを食べて散歩をして、母親よりは長生きしたい。


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ピノ

ピノ

3DSのソフトでファミスタクライマックス2017という野球ゲームがあるのだが、2018年ごろに買ってから2021年現在まで毎日ずっとやっている。

2019年から漫画の連載を1年やっていたのだが、その間もトイレでうんこをしてる時だけファミスタクライマックス2017をやっていいルールにしていた。うんこをしてる時の1試合だけなのが罪悪感を感じず、息抜きになっていたのだが、いつのまにかどんどんトイレにいる時間が長くなり、1試合が3試合、3試合が9試合になり、落ち着いてゲームをやりたくてスタート画面が立ち上がる前にうんこを出し終わっていた。もうこうなると、椅子が便座、肛門がうんこのついた肛門に変わっただけなので、普通に部屋でやれよと自分でも思うのだが、誰に見張られてるわけでもないのにトイレだけの息抜きという名目の中にいるのが心地よく、最近のプロ野球選手はあまりわからないので能力値(F~Sまである)だけで選んだ血が通ってない監督としてペナントレースを何十週もしていた。


トイレが長くなると下半身丸出しの状態も長くなるので体がめちゃくちゃ冷えた。男性のほとんどがエロ動画を探してる間に風邪をひくと聞くが、オリジナルのもう一つの事例を作ってしまった。トイレでファミスタクライマックス2017をやりすぎたため休載になるわけにもいかないなとそこはギリギリあったプロ意識で試合数を減らし、早く作業に戻るようになった。


なんでファミスタクライマックス2017だけをこんなにやってるの?と聞かれても正直よくわからない。完全に飽きている。もうコンピューターの強さを最大にしてもコールドゲームになるので、バッティングセンターでホームランを狙う遊びをしてる感じに近いかもしれないが、それにしたって何でずっとやってんだと自分でも思う。ただ1シーズン終わると、同じメンバーをもう使わないというルールにしているので、だんだん能力値が低いバランスの悪い選手の集まりになってきて、少し工夫しないとコールド勝ちできなくなったのが張り合いになっている。パワーはSランクだけど足は激遅の選手だったり、足は速いけど打撃がどうしようもなかったり、張り合いにはなっているが、普通にイライラするので息抜きになっているのかは怪しい。ピノという、足はSとめちゃくちゃ速いが打撃能力がCとかDでバットに当たってもフライになったり、緩いゴロでアウトになる打てない選手がいるのだが、足がここまで飛び抜けて速いとファミスタクライマックス2017の世界ではバントで転がせば、内野安打量産できるのでチームに入れたら、バントがEでなんでだよとなった。ピノ、お前がこの世界で生きていくには、バントを磨くしかないだろ。何をバットに重り付けて練習してるんだ。打撃は捨てて、バントだけ練習しろ。せめてDかCにはできるだろ鼻も長いし手もどうなってんだ。鼻は関係ないでしょと飛び掛かってきたピノ。ピノの帽子からわずかに出た前髪を掴む私、喧嘩を止めに来た水野雄仁をビンタしてその日は終わったのだが、あとで考えたらそうだよなホームランを打ちたいよなピノ、足が生まれつき速かろうが打つセンスが無かろうがホームラン打ちたいならホームランを打ちにいく練習をするんだよなピノと、極寒のトイレの中でパンツを上げ机に戻った。


商店街

上京して15年ぐらい同じアパートに住んでいる。人混みや派手なネオンが無く、東京のわりには静かで家賃も安めの場所だ。商店街も「この店主ずっとおじいさんだな」と人生のおじいさんの期間が長いことを教えてくれる店が多い。たまに新店ができるが、静かな町なのでほとんどの店がつぶれてしまう。

コロナが流行る前の話だが、商店街をブラブラしてたら見たことあるおじいさんが弁当屋で店員さんに絡んでいた。店員さんが中国の方なので日本語がうまく伝わらずキレてるようだった。この声覚えている。昔バイトしてたコンビニのクレーマーだ。

そのじじいは(当然ここからじじいと呼びます)あらゆることに因縁をつけてくる常連のクレーマーで、全店員からレジに来るまでに奇跡的に死んでくれと願われていた。目があう「何見てんだ」通路であう「邪魔だ」全部自分からあわせにきて、じじいになるまで留年してるヤンキーみたいだった。

少し前にコンビニ店員が絡んできたお客さんをぶん殴ったニュースがあって、それに対して接客業向いてないよってコメントしてる人を見たのだが、この世に接客業に向いてる人間はいないし、人の悪意は無限大を実際に体験してきたので、店員に何言っても殺されることは無いと思ってるお客さんがいるけど、その店員の人生のタイミングとバッチリ合えば十分可能性があるのでお互い気を付けた方がいいと思った。ほとんどの店員はクレーマーに何を言われても「辞めたらぶっ殺してやる」と辞めてもぶっ殺していい世界に行けるわけでもないのに、退職してたまたま再会した路上の電柱で額を砕き、ねこじゃらしで首を絞め、証明写真機に座らせて立ち去る妄想をして、えへへとやり過ごすものだ。その妄想がちゃんと叶えられる状況になったのはコンビニ店員を辞めてはじめてだった。

このじじいのことで1番思い出すのが、バフマシーンという機械で床をピカピカにする作業をしていた時のことだ。最近の店は元からピカピカに加工してある床が多いので見かけなくなったと思うが、昔はよく見た店員がゆっくり動かすあれだ。その日はオーナーと私の二人夜勤でただでさえ気が抜けない中仕事をしていたのに、ちょうどバフをかけだした嫌なタイミングでじじいが現れた。マシーンをゆっくり動かしていく進行方向にずっとじじいがいる。左に曲がれば七味唐辛子を見つめたじじい、右に曲がれば袋麺が割れていないか確かめるじじいが現れ、できるだけ離れて横を通ってもバックステップしてきたじじいに「おっと、あぶねえ」、角から急に現れたじじいに「邪魔だ」と怒鳴られ、なんだこのクソゲーどうやってクリアするんだとイライラしながら進め、バフマシーンにツーコンマイクが付いていたら試しに叫んでいるところだった。ほんとはじじいが帰るまでいったん中止にしたいが、納品が来る前に終わらせないと時間がなくなるからやるしかない。なんとかゴール付近の雑誌コーナー前まで来たのだが、通路を塞ぐように立ち読みをしているじじいがいて通れない。「あの、通りたいので少し横にずれてくれませんか?」とたずねても、チラッとこっちを見て「今読んでるだろ」と言われ却下されたので、むかつきすぎて「いや、どけよ」と口から出ていた。今まで反撃したことがなかったので驚いたのか、じじいがオーナーの元へ行き、なんだあの店員教育がなってないぞ的なことを言ってる間に、雑誌コーナーをピカピカにしてこのクソゲーをクリアできた。普通にどかせばよかったのだ。それから、そのじじいは私がいる深夜の時間では見なくなった。

ひさしぶりに見たじじいは元々痩せ型だった体がさらに萎んでいて、弁当屋の中国人女性がスーッと逃げていくのをしつこく追いかけていく足取りもどこか悪いのかフラフラしていた。あんなにぶっ殺したかったじじいに特に何の怒りもない。それどころか、なぜか他人事じゃないように感じた。店の入り口付近でずっと見つめていたのだが、こちらに気づいたじじいは店員さんによく聞こえない捨てゼリフを吐きながら店を出て行った。今はこの弁当屋さんもつぶれて無くなっている。

商店街の中にできてすぐ閉店した店の人たちが、今は何をしているのだろうかとふと頭をよぎることがある。だいたい自分の気分が落ちている時だ。そんな時によぎることなので、あまり良いことを想像できない。でも、名前も忘れた弁当屋のあの竜田揚げがうまかったことは覚えていて、その自分が覚えていることに自分が救われた気持ちになる。それはすばらしいことでは無いだろうか。と思いたい。

近所の雀荘の前を歩いてたら、そこから出てきたおじさんに「○○のコンビニにいた人だね」と声をかけられたことがあった。この人もあのコンビニの常連客のおじさんだ。クレーマーではなく普通のお客さん。「ああ、どうも」と少し会話をしてたら「普段は優しい顔をしてるね」と言われた。お互い様だったのかもしれない。

プロフィール

たか たけし

Author:たか たけし


ビッグコミックスペリオール「住みにごり」連載中



週刊ヤングマガジン「契れないひと」連載 全3巻



たかたけしの店 https://suzuri.jp/takatakeshi



お仕事などの連絡先 takatakeshi300@gmail.com

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